【クロツラ日報】教えて!松本さん 第2回
- 松本悟
- 2018年2月13日
- 読了時間: 6分
日本クロツラヘラサギネットワークの事務局の松本です。2月5日に引き続き日報を担当させていただきます。
私はクロツラネットの事務局ですので、野鳥に詳しい人だと勘違いされることが多いようです。確かに立場上クロツラヘラサギや干潟の鳥のことは少し詳しくなりましたが、他の鳥は全く素人です。野鳥愛好家でない私が何故20年以上もクロツラヘラサギと関わっているのか・・・
私のクロツラヘラサギとの出会いは、25年くらい前に福岡市に住んでいた野鳥研究家のニール・モアーズ氏に教えてもらったことから始まります(現在、ニールさんは韓国でBirds Koreaを設立して、野鳥調査やガイドで活躍しています)。クロツラヘラサギの総羽数が約280羽と云われていた頃です。
当時、私は、和白干潟(福岡市東区)の保全のために「博多湾人工島埋め立て事業」に反対する活動に参加していました。1994年に埋め立て工事が始まったのですが、1年後にクロツラヘラサギ10羽が埋め立て工事区域に飛来しました(前回日報)。
私はこのことをきっかけに2つの活動に取り組みます。ひとつは日本クロツラヘラサギネットワークの立ち上げです。もうひとつは人工島埋め立て地に、野鳥のための湿地を残すこと(野鳥公園の提案)です。ここからクロツラヘラサギとの具体的な関わりがはじまります。
私の場合、鳥が好きだから・・・という理由ではなく、かなり戦略的な付き合いのはじまりです。
私は人工島計画を見直すことと、和白干潟を守るために保全すべきシンボルとしてクロツラヘラサギを利用できるのではないか?と考えたのです(これは野鳥が好きな人たちから見れば、とても不純な発想かもしれませんね)。
しかし、埋め立て工事がほぼ終わり、市民運動が途絶えてからも、私とクロツラヘラサギとのつきあいは以前にも増して密に長く今日まで続きます。
2009年3月に台南にクロツラヘラサギを見るために行きました。その時一緒だった新聞記者と空港へ向かう高速鉄道の中で、「何故、私たちは台南までクロツラヘラサギを見に来たのですかね?」と・・・いろいろと語り合ったことを覚えています。明確な答えは出なかったような気がしますが・・・。
「何故なのか?」の理由はさておき、クロツラヘラサギはバーダー以外の人たちも惹きつける魅力があることは間違いありません。 野鳥に興味がない人も大好きになる鳥のようです。
・私が台南に行った時に、日本でクロツラヘラサギの保全活動に関わっているというだけで、エコツアーの船着場の切符売りのおばちゃんからサインを求められたことがありました。このおばちゃんはバーダーではありません。当然私はビックリして案内してくれた方に尋ねると、みんなクロツラヘラサギが大好きなんです、と言いました。
そういえば、台南のデパートが開店したときのオープニングイベントがクロツラヘラサギの写真展でしたね。信じられますか?
・2006年に韓国で開催されたシンポジウムは、ソウルからバスで1時間ほどの江華島のホテルで一泊二日で開催されました。120人ほどの参加者でしたが、驚いたことに半数以上はソウルから大型バスで来られた一般の親子連れでした。まだクロツラヘラサギが日本ではほとんど知られていない頃でしたから、その人気の高さに驚きました。
・ここだけの話ですが・・・最初にSAVE Internationalから手紙が届いた時に、「何故、クロツラヘラサギのいないアメリカで保護活動をやっているんだろう?」と・・・理解するまでに少し時間がかかりました。
・私が住んでいる福岡市では、今津干潟や、多々良川河口、和白干潟などに飛来します。私が観察していると、散歩している方にクロツラヘラサギという珍しい鳥が来ていますよ、と教えられたことが何度かあります。地域のみなさんが知っていて、クロツラのことを誰かに教えたくなるということですね。
こんな風にクロツラヘラサギは、地域や世代を超えた多様な立場の人が関わりたくなる鳥のようです。野鳥愛好家や専門家だけの鳥ではありません。きっとクロツラヘラサギは人と鳥とのつきあい方を大きく変えてくれるのかもしれませんね。
Team Spoonのみなさんのアクションもそのひとつですよね。
野鳥に詳しくない私がクロツラネット設立以来、事務局をなんとか務めているのもその典型かも知れません。(本音は5年くらい前から辞めたいと訴え続けています。新陳代謝が必要です。Team Spoonのメンバーで事務局を引き受けてくれる方はいらっしゃいませんか? 野鳥に詳しくなくても務まりますゾ・・・・)
前回の日報で、有明海の3箇所がラムサール条約湿地になっているとお伝えしました。現在、球磨川河口が次の登録を目指しています。ここでもクロツラヘラサギやシギ・チドリの観察会を毎年行っています。鹿児島の錦江湾でもクロツラヘラサギの生息地であることが清掃活動のきっかけになったりしています。
クロツラヘラサギはそれぞれの生息場所で、地域の環境を見直すきっかけづくりをしてくれるような気がしています。
私はクロツラヘラサギを観察するときに必ず考えることがあります。「クロツラヘラサギが私たちの前に姿を現すのは、助けを求めているのではないのか?」、「クロツラヘラサギは“ここ”の環境はとても大事ですよと教えるためにやって来たのではないのか?」。
私はバーダーでもないのにクロツラヘラサギに関わるようになって20年が過ぎました。シギ・チドリ類など干潟の渡り鳥のことや干潟生態系について少し学びました。様々な “現場”にも行きました。多くの人にも出会いました。
最初、クロツラヘラサギを環境保全のために利用しようと考えたと書きました。でも、本当はクロツラヘラサギが持っている、「アイドル性」や「啓発力」などに助けられて来たのかもしれませんね。
私はもう少し干潟・湿地環境を考えるための優れた友人としてクロツラヘラサギとつきあっていくことになりそうです。
Team Spoonのみなさんはどんな風にクロツラヘラサギと向き合っていかれますか?
※本当は九州・沖縄の主なクロツラヘラサギの生息地の紹介をしようかと考えていて、その最初に自己紹介を書き始めたら、こんな稚拙な文章になってしまいました。生息地の紹介はまたいつかです。ご容赦ください。

2006年、韓国・江華島のシンポジウム。休憩時間にクロツラのイラストを30秒くらいで描いて参加者にプレゼント。

台南のクロツラヘラサギ第2観察舎。エコツアーの説明風景。

台南・四草のエコツアー。学生がたくさん参加していました。

台南のデパートのオープニングイベントのクロツラヘラサギ写真展にて