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【クロツラ日報】教えて!松本さん vol.1


日本クロツラヘラサギネットワークの事務局の松本です。2月5日と12日の日報?を担当させていただきます。

ちょうど今、2018年のクロツラヘラサギのアジア一斉センサス(主催:Hong Kong Bird Watching Society)の日本国内の集計作用をしているところです。2月5日現在の集計では53箇所のサイトで、最大508羽となっています。日本クロツラヘラサギネットワークを設立した2002年はわずか95羽でした。クロツラヘラサギは東アジア全体でも、日本国内でも急激に増えてきました。

なぜ増えているのかについてはよく判りませんが、ある野鳥の専門家曰く、「ひとつの種が爆発的に増える時期がある」そうですが、クロツラヘラサギの状況がこれに該当するかどうかはわかりません。また韓国の専門家は「朝鮮戦争で環境が破壊される前には約10,000羽いたのではないか」と推察されていました・・・これを言い換えると、平和な時期が続いて増えた・・・ということになります。まさに韓国で「平和の鳥」と呼ばれている所以かも・・・。

増えた理由として確実なのは、東アジア全体のネットワークが充実してきて、各国の詳細なデータが集まってきているということです。さらには韓国の繁殖島での巣材の提供などによる繁殖率アップのための活動や、台湾での保護区の整備などが生息数の拡大に大きく貢献していることは間違いありません。もちろんこれらのベースには、各国の熱心な啓発活動があり、注目度の高まりがあります。

日本では2012年にクロツラヘラサギの増加によって、絶滅危険度が下がったということで環境省の基準が「絶滅危惧1A類」から「1B類」に変更になっています。素晴らしいことだと思います。

国内の主な越冬地は、繁殖地が集中している朝鮮半島に近い、九州・沖縄に集中していますが、石川県や東京都、徳島県、鳥取県、北海道などでも少数の観察情報が出ています。今後、飛来数が増えれば本州での観察情報がもっと増えるのではないかと思っています。

越冬地の環境としては河口干潟や調整池などで、豊富な餌と、風避けができる安全な塒が必須条件のようです。

現在、八代海の前川河口〜鏡川河口一帯が最大の越冬地で100羽前後が飛来しています。生息範囲も従来の越冬場所からその周辺に広がっていて、内陸部のため池、調整池などの利用も増えています。(なので正直、調査が追いつきません。絶滅しそうなのはクロツラよりも調査メンバーです!!)

重要な越冬地になっている、「荒尾干潟(荒尾市)」と、「東よか干潟(佐賀市)」、「肥前鹿島干潟(鹿島市)」がラムサール条約湿地になっていて、クロツラヘラサギも大きな役割をはたしています。今後ラムサールサイトでの行政的な位置付けによる干潟保全の取り組みが他の越冬地域の環境保全策の先進事例として広がっていくことを願っています。

クロツラヘラサギの保全に関する重要な2つの事例を紹介させてください。

ひとつは、「博多湾人工島埋め立て事業」での事例です。博多湾東部、和白干潟の前面海域401haを埋め立てて新たな街(アイランドシティ)づくりをする事業で、1994年に埋め立て工事が始まりました。その1年後にクロツラヘラサギ10羽が埋め立て工事区域に飛来し、その後増え続け、当時国内最大の飛来地(63羽)になりました。その理由は、初期の埋め立てに浚渫土砂を使うため、土砂の中に豊富な餌生物(魚類、底生生物)が入ってくるのと、埋立てによって浅い湿地状態になり、絶好の採餌場になること。さらに海の中で隔離された安全な場所になっていたことなどです。もちろんシギ・チドリ類、カモ類もたくさん入ってきました。この時期の野鳥の密度はすごかったです。

しかし博多湾人工島の埋立てが進むにつれて湿地がなくなり、残念ながらクロツラヘラサギの越冬はなくなりました。この事態を受けて、SAVE Internationalや福岡大学の研究室などが保全に向けた提言を行ったことはとても重要なアプローチで、今後も生かされるべきだと考えています。

この課題は、現在の熊本新港や、北九州の曽根干潟周辺の越冬地でも同じ状況にあります。近い将来これらの湿地は埋め立てられてしまう予定です。韓国のSong-doではさらに大きな埋め立てが続いています。

もうひとつは成功事例です。

八代海に面した氷川は1995年頃から定期的な飛来が確認されていて、クロツラネット代表の高野が撮影した「クロツラヘラサギのなる木」は当時“ごく一部”で受けていました。 ここでは九州新幹線の開通に伴う橋梁工事が実施され、クロツラヘラサギの生息地(中洲)への影響が懸念されました。そこで、地元の野鳥保護団体などが、工事を行う鉄道整備支援機構と話し合いを行い、クロツラヘラサギの飛来時期(冬季)には中洲に影響を及ぼすような工事は避けて他の部分の工事を優先させること、そして生息場所を工事区域から遠ざけるために、少し上流側の中州にデコイを置いてクロツラヘラサギを誘導して生息場所を移動させることなどに取り組みました。

これらは功を奏して、現在もクロツラヘラサギはデコイとともに氷川河口の中洲を利用しています。

クロツラヘラサギの増加傾向は続いていますが、釣り糸による被害や防鳥ネットによる被害、湿地環境の劣化など各地で様々な課題を抱えています。

まずはクロツラヘラサギの啓発活動を頑張らなければなりませんね。特に生息地域のコミュニティに理解していただくことが重要ですね。ノウハウもマンパワーも限られているので現実的には難しいのですが・・・・・12日の日報へ続きます。国内の集計値もお知らせできると思います。

クロツラヘラサギのなる木(氷川河口)

人工島埋立地の中のクロツラヘラサギ(福岡市)

人工島埋立地の中のクロツラヘラサギ(福岡市)

クロツラヘラサギとデコイ(氷川河口)

クロツラヘラサギとデコイ(氷川河口) 

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